たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

久しぶりに渋い本に出会った

旋盤工として働きながらノンフィクションや小説を発表し、芥川賞直木賞の候補にもなったという風変わりな経歴を持つ小関智弘さんの『現場で生まれた100のことば』という本。ほんとに久しぶりに「やったー!」と叫びたくなるような愉快で稀有な本に出会った。


職人という手仕事の世界に生きながら、優れた先輩や名工といわれた人たちから直に学んだ「職人のことば」を丹念に集めた本だ。大学ノート2冊にびっしりと集められたというから、きっと何十年と歴史を刻んだノートなのだろうな。


こんなことば、とってもいい。仕事に生きる面目躍如というのだろう。

俺にだって、うまく立ち回ればもっとお金を儲けるチャンスはあったよ。でも、そんなことをしたら、晩酌のビールがうまく飲めなかったろうさ。


及森文雄さん 溶接工 及森溶接 大田区


別のところで、こんなことばが出ている。解説は不要だ。

わたしたちの世界では”逃げ仕事”といっています。仕事を逃げるといいますか、そうなったらもう腕はすたれます。


恩田勝哉さん 江戸指物師 台東区


ことばとことばの間に、ことばの出典というかことばの発言の主の説明がサラッと入っているのだが、その渋さに泣ける文章がつづく。
上記のことばに関連するが、小関さんはこんな文章を書かれている。

プロの職人、一流のものづくりをする人たちは共通して、一般には無理とされるような仕事に好んで立ち向かう傾向がある。あちらこちらから断られたあげく、そこをなんとかと拝むように持ち込まれる仕事を、職人たちは「菓子折りつきの仕事」と呼ぶ。そんな仕事だから、成功したときの達成感は大きい。


小関智弘著『現場で生まれた100のことば』早川書房 p.80


もうひとつ、印象的なことばを紹介。

いい若い者が、企業利益だとか、利潤の追求とかいうことばをふりかざしているのを聞くと、ヘドが出るほど嫌だねえ。


ひとり工場主 森山さん 機械部品製造 大田区

なんだかとっても痛快。日が当たらずもっとも隅に追いやられているかのような、それでいて現代社会を支えている職人さんの技術の世界。この評価の低さはいずれ正されるのだろうけれど、もっともっと日を当てるべきだと思うのは私だけ?


巻末に、ビートたけしさんとの対談編が付いている。たけしさんのちょっと意外な人となりがうかがわれて、これも楽しい。


現場で生まれた100のことば―日本の「ものづくり」を支える職人たちの心意気



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