たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

アクリル絵の具の面白さ

アクリル絵の具は、不思議な絵の具だ。

描く際には水を使い薄めることができる。薄める水分が多ければ、ほぼ水彩のようなサラサラの状態となって、水彩と同様の描き方が出来る。

しかしひとたび固まると、水にも、普通の溶剤にもとけない強固な膜となってしまう。しかも接着剤のように付着する、なので木の表面や紙、コンクリートや石などにも描くことが出来る。変わったところでは、革製品の色落ちしたものや擦れて色が剥げてしまったところの補修にも用いることが出来る。(ときどき革製品の補修を依頼されることがある)

絵の具は、基本的に色を出す顔料の部分を、展色剤(メディウムとも言われる)に混ぜ込んだもので、顔料部分はみな同じだ。したがって色の名前は共通になっている。

油彩絵具の場合は、主にリンシードオイルに顔料を混ぜ込んだものであるし、水彩絵の具は、アラビアゴム+水+グリセリンに顔料を混ぜ込んでいる。

ではアクリル絵の具の場合はというと、アクリルの樹脂の粒子中に顔料が閉じ込められていて、この粒子が水に浮いているような構造になっている。水の中に粒子状態の顔料とアクリル素材が浮いている感じ。この構造は牛乳の構造と同じで、エマルジョンと呼ばれる。

乾燥させない限りは、絵の具は水の中に分散して浮いているので、多くの水で薄めることも可能だが、この水分が失われると、アクリル樹脂の粒子同士が付着して重合してしまう。こうなるといわゆるアクリル樹脂とまったく同じ物体になると考えていい。したがって水には溶解しないし普通の溶剤では溶かすことができない丈夫な膜になる。

この強固な膜の形成があるので、アクリル絵の具の登場により、野外で看板を描いたりパフォーマンスとして壁などに絵を描くスタイルが可能となった。絵の具を野外に持ち出したといわれるゆえんだ。

ただ欠点がないではない。水分が乾燥すると重合反応が起きてしまうので、うっかり水が飛んでしまうと、絵の具も硬く固まるし、筆なども固まって棒のようになってしまう。パレットなども一度使ったら使い捨てにするスタイルが一般的になった。まあ乾燥が速すぎるという意見が多い。

描いているあいだ休憩するときは、水をためた筆洗いのような容器に筆をいつも漬けていて、乾燥させないように注意しなければならない。

また描いているときに、水分が乾燥すると絵の具が「やせる」感じがする。薄べったい感じがしてしまう。これは水分の蒸発で絵の具が固まるので、やむを得ないところだ。この「やせ」をへらすためのメディウムも出されているが、どの条件で混ぜればいいかは、個別に研究する必要があると感じている。