たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

ゴッホの『ドービニーの庭』

仕事のつながりで、同業の分析機器メーカーHORIBAの情報誌をいただく。最新号にゴッホ『ドービニーの庭』の話題が載っていた(HORIBA HIP Vol.21,2009.1)。


この絵には猫のミステリーがあってけっこう有名らしい。ゴッホが自殺する直前に(2週間前ともいわれる)、同じ構図のドービニーの庭の絵を2枚描いた。一つはスイスにあり、残りはひろしま美術館に所蔵されている。スイスの方には、画面左下に黒猫が右に向かって歩いているが、ひろしまの方の絵には猫がいないという謎だ。


これまで赤外線やX線による解析が試みられたが、結論は出なかった。今回、HORIBAのXGT-5000という、X線を直径10μmまで収束できる分析装置で再びトライしたところ、いないはずの猫の姿がくっきりと浮かび上がった。調べると昨年10月のニュースになっているようだ。こんな情報も。


つまりゴッホは2枚とも猫を描きこんでいたが、ひろしま美術館に所蔵される方は、ゴッホの死後誰かが塗りつぶしてしまったということが明らかになった。ゴッホが絵画として必要な猫の意図を解さず、誰かが風景画に仕立てた(修正した)ということらしいのだが。


生前まったく絵が売れず、無名の変人画家としてなくなったゴッホだから、売れる絵に仕立てるため、ためらいもなく後世の人間が、猫を塗りつぶしてしまったのだろうか。なぜ猫が不要と考えたのだろうか。その疑問が頭のなかに残る。


《追記》
岩波文庫ゴッホの手紙』上中下が、刊行されている。[ゴッホの手紙 下 テオドル宛  岩波文庫 青 553-3 ]には、最晩年に弟テオドルにあてた手紙が収録されていて、ペンで描いたと思われるドービニーの庭のスケッチが出てくる。やはり黒猫は描いてあった。


にほんブログ村 美術ブログ 絵画へ