たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

虚空に漂う断章群

李禹煥(リ・ウファン)の作品の多くを見たことはありません。むしろ彼の吐き出した言葉との付き合いの方が多いのです。芸術や絵画など本来言葉とはなじまないものを、言葉として結晶化させようとする作家の姿勢が共感を生む。そんなアングルを通じて付き合っている、というのが正確なところです。


今日は、彼の筆に対する思いを綴った断章が、しみじみ共感を覚えました。

窓際にぶら下げてある筆が虚空にゆれている。
硬い棒の先に、柔らかい毛の束を付けている棒筆の姿と歴史。
人間の業を越えた気韻を生むこの絶妙なる存在を、初めて作り出した者は何処の誰か。


余白の芸術
画集の断章より p.341


筆という存在がなかったら、自分達は何を用いて絵や書を描いただろうかと考えてしまうのです。溶液となった絵具をダイナミックかつ自由に白紙に運ぶ。あるいは複数を混合する。鉛筆やペンでは得られない筆の味わいを何で代用するのだろうと。


さらにこの筆の中には、その描こうとする目的に応じ、水彩画用ならばシベリアのコリンスキーの尻尾の毛が最高の描き味だとかいう経験の集積が詰まっており、知る人ぞ知るという確固たる世界が広がっているのです。


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