李禹煥『画集の断章より』
短い断章あるいは詩の連なりという趣ですが、これ以上の他の言い方がある?と思う言葉たち。煮詰められ照準を合わせられた短い言葉たち。
好きな言葉はこれ。
一つの点を打つと、がぜん辺りが動き出し、紙面の上空低く生気の漲る空気が漂う。この初々しいイリュージョンの体験は、ついにぼくを画家にした。
余白の芸術 画集の断章より6 p.326
水彩画でも、鉛筆画でもいいのですが、最初の一筆あるいは鉛筆で水平線を入れるとき、白紙でしかなかったスケッチブックの白い面が、急に佇まいを整えて風景らしきものに集約されていく瞬間。何ともいえない未知の世界の展開の始まりが毎回訪れるのです。
最初の一本の線を描いたときに、これはうまくいくとか、これはダメだとかがすぐ直感的に理解してしまう怖い瞬間でもあります。一本描かれた線とまだ何も描かれていない膨大な空間とか共鳴して、すでに絵画空間を張ってしまうのです。