たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

『不可能なことを自分に課さない』

この表題の言葉は、マドモアゼル・愛さんの著書に出てくる章の内容だが、つねづね自分のあり方や今後を考えるときに、思い起こす言葉のひとつだ。『不可能なことを自分に課さない』この一見して単純かつ当たり前の言葉は、じつは自分自身が陥りやすい落とし穴を指し示してくれる大変ありがたい言葉だと思う。


僕たちの過ちの大半は、この不可能なことを可能にしようとして時間を空費しているところにあるのではなかろうかと思う。所詮ありえないことや無理なことを、ふと目が眩んでか、自分はできると思い込む。あるいは何となく当たり前のように思ってしまう。しかしこれらはほとんどの場合、現実に立脚していないただの妄想であることが多い。


若い頃は、自分がなりたいと願望する自己像と真の自分の姿が未分化の状態だ。身近で出会った素晴らしい人に憧れて、その人のようになりたい気持ちが、いつしかそうならなければならない、そして自分も同類なのだと思い込むところまでやがて発展してしまう。


外にばかり目が向いているのは危険で間違いやすい。肝心なのは真の自分を知ることなのだ。人に憧れてばかりいて、あるいは規範としたい人を探し続けて、自分を内省して見つめる部分が留守になっていた自分。そういうフワフワした自分の姿が本当の姿だったと気づくことこそが重要なのだ。


地に足を付け内省できるひとは、人を羨まないし、真似をしようとはしない。まず自分とは何か、それを見つめ続ける。人にはなれないし、所詮それは不可能なことだからだ。



マドモアゼル・愛さんの著書に、森田正馬博士と神経症患者とのやり取りが紹介されている。

ある青年の悩みというのは「私は臆病ではダメだと思い、街中で出会う若い女性に話しかける努力をしたがダメだった。どうすれば若い女性に話しかけられるでしょうか」というものです。
博士のお答えは「見知らぬ若い女性に用もなく声をかけるということは、私にもできない」という、まさに見事の一語に尽きるつきるものでした。


心は素顔がいちばんうれしい (elfin books series) p.103

森田正馬博士は、日常の診療において患者さんの目を正視して話をすることが出来ないくらい繊細でシャイな方だったらしい。おそらくこの答えも博士からすれば、静かで自然な言葉であったろう。しかし相談者の妄想を見事に打ち砕く、破壊力を秘めた言葉だったのではなかろうか。


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