たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

遭難事故

長野県内の山岳遭難者の数が過去最多だそうだ。年間統計なので、この秋だけの事故数ではないが、10月の連休の山の遭難事故の多さが新聞などで報道されている。今年の秋の訪れが例年に比べ急速だったせいか、想定外に山の天候が厳しいということも影響しているのではないかと思われる。


秋の訪れとともに長野県と東京新宿を結ぶ高速バスの混雑が激しくなり、週末と休日の終わりの高速道路の混雑がひどい。長野と東京を毎週高速バスで往復していると、中高年者の登山姿の客が最近特に増えている。男女比で言えば、女性が6割から7割くらいに感じる。


先日の連休で、北アルプス白馬岳の遭難事故でなくなった方は、60歳代の女性が大部分を占めた。高速バスで乗り合わせた登山姿の女性乗客たちと、思わず重ね合わせてしまう。聞くところによれば、凍り付いて下着までゴワゴワになって亡くなられた方、リュックのジッパが凍結して開かない状態だったなどの話も聞く。


繰り返し言われることだが、山の天候は変わりやすくその振幅は激しい。紅葉を楽しむ程度のハイキング気分の装備で山に出掛けて、吹雪に遭遇して動けなくなるなどの例もある。自分の思い描いている登山のイメージと現実の山の厳しさとのギャップが、こういう山の事故の遠因になっているのではないだろうか。


こういう痛ましい事故の話を聞くにつれ、プロとアマの違いを連想してしまう。アマチュアは、プロと比べて何がいちばん違うかといって、経験の量だと思う。経験の量が多いということは、さまざまな経験をつんでノウハウの裾野も広いのが普通だ。そういうバックグランドをデータベースに持ちながら行動しているのがプロだ。アマチュアは、経験が乏しい分、自分の希望や夢や思い描いている世界に引きずられがちである。経験や体で覚えている肌感覚を重視するプロに比べ、頭で行動するパターンが多いのではないだろうか。


このことは登山技術だけにとどまらない。経験者の知恵やノウハウを軽視して、奇妙な独りよがりな自信を持って現実を見つめない姿勢が、さまざまな障害を生む例は他にもあると思えてならない。
そして思うのは、こういうノウハウは経験者から直伝されるしか伝わらないことだ。技術は、間違いなく人から人に伝わる。知識とか本ではない。このことはできるだけ一人でやろうとしてして要らない苦労をしてきた自分の苦い経験でもある。