たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

あわただしく日が過ぎて

記事にするようなことがらがたくさんあれど、パソコンに向かうヒマなし。
そんな感じだった。


土曜日は絵画教室。

金曜の晩に、仕事を終えて東京から戻り、食事をしてくつろげばもうすでに12時を回っている。会議続きで疲れてしまったのだが、明朝は絵画教室の約束だから、すこしは絵を描かないとまずいな、と思いながらウトウト。寝不足が続くと頭が痛い。
このまま寝てはまずいゾと、ガバッと起きて風呂につかり、出てからキャンバスに向かう。
下描きの終ったF8キャンバスに、下塗りの色を太い平筆でどんどんのせていく。山や谷は黄色系で、地面は朱色、屋根は紫と迷わず塗りつぶす。やがてとんでもなく奇妙な色合いの下塗りができる。色の面積のバランス、山そして空の割合などを確認しながら、手直しを加える。水彩だったら絶対こんなことはしないよねと呟く。こうして2時くらいにようやく就寝。


土曜日は朝から光が満ちた好天気。
先生のお宅の2階デッキを陣取り、昨晩下塗りをしたキャンバスをイーゼルにたてて、どんな風にしたものかと戦略を練る。夜に想像した色合いよりも現実の風景は光に満ちて明るい。アクリルとか油絵は、絵の具のままではとても使えない。原色過ぎて鮮やかすぎてしまうのだ。それに色がシンプルすぎる。色々な色を混合してネチネチと練ってみて色味を確認する。こんな汚い曖昧な色でいいかなぁ、と思うくらいがちょうどいい。
水彩は水をジャブジャブに使うことで淡い色彩が出せるが、アクリルではそうは行かない。つぎつぎと混ぜなければならない。


やはり惹かれている遠景の緑を塗ってしまえ、というわけで山の色合いを仮決めして、次いで手前の針葉樹のやや濃い緑を塗ってみる。すると先生は、手前にも手を入れてねと注意。どうも手前の近景を手抜きするクセがあるみたい。
先生は彫刻家だから、たぶん自分のいるところと対象の空間的な関係をキッチリと求めないと気持ち悪いのだ。


「山が立っている」と言われる。始めは何のことか分からなかった。
「山の形をした紙をそこに立てているみたいでしょ?垂直にね。」
「なるほど」
「山の裾野と頂上は自分からの距離が違うんだよ。裾野から次第に遠ざかって行きながら高さが増してくる。そこにホラ、大きな円錐の立体があるわけさ。」
「なるほど、なるほど」
「そこに太陽の光が差す。だから山だって光の反射具合が変わる。それを感じて描かねばならない。遠くなれば空気層が厚くなる。すると光もボンヤリと霞んで、鮮やかさが失われていく・・・」
「うーん、そのとおり・・・だな」
「絵の中に描かれた山や木や家のそれぞれの距離感を表現しなくちゃね。」
「ハイ」


この日は防戦一方で、バトルにはならず教室を後にする。
この先生をいつか唸らせてやるぞと思いつつ。