たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

和田秀樹『人は「感情」から老化する』祥伝社新書

老年精神医学を専門とする和田氏の言葉には重みがある。和田氏は言う。「年をとっても、体力・知力は意外に衰えない」と。衰えるのは感情の部分で、感情が老化すると「意欲」、「自発性」、「好奇心」を失う。これらはいずれも脳の前頭葉と呼ばれる部位の働きで、この部分の若さを保つことが重要であるという趣旨だ。記憶力の衰えに関しても、自分の関心のあるものは覚えられる。しかし感情が老化すると、関心を持つ領域が狭くなってくるのと、集中ができなくなるという現象が起きる。つまり「関心」という部分と「集中」という部分が弱くなる。


このように言われるといくつか思い当たるフシがある。大学受験のときのような、若い頃に勉強に集中した時間をゆっくり取れないのは事実であるが、しかしその時間が与えられても、半日だって一つの本を強制的に読み続ける集中力と関心の維持は、おそらくできない。書物を読んでも、文脈の途中でその後に続く筋の流れがわかってしまい、緻密には読めなくなる。パラパラと飛ばしてしまうことがしばしばだ。


記憶するには、新鮮さを感じてそこに驚きを含まないと、なかなか深く記憶が打ち込まれない。しかし年齢とともに、わくわく、ドキドキという体験が減ってしまうにつれて、しっかりと脳細胞に記憶するプロセスが作用しない気がする。草が深く生えて藪こきをしなければならない山道を突き進む場合には、クマが出現して出くわすかもしれないし足元にはヘビがとぐろを巻いているかもしれない。脳もフル稼働といってよいだろう。しかしすっかり舗装された安全で通りなれた道では、なかなか新しい発見なんてしにくく退屈きわまりないというわけだ。


そして昔話をすることに抵抗がなくなり、ちょっと薀蓄やら説教を言いたくなったり、イライラしたりと、老化の兆候はどんどん現れてくる。または感情の切替ができずにウツに陥ったりする。なんだかこのように老人の特徴を並びたてられると、それだけでウツに陥るような気がするが、それすらも乗り越えなければならない。


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