たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

『理由はないのです』

約3年間にわたって間断なくアパートの階下の住人から、さまざまな嫌がらせを受けた。自転車へのイタズラから始まって、深夜に至るまで大きな物音による嫌がらせが、絶え間なく日々続けられた。対策も持てないまま、この3年間は、やられっ放しだった。


大家さんに相談した結果、先の女性入居者への住居妨害まで明るみに出た。それでも、相手はいっさい反省の色は見せなかった。というよりも面と向かっては話し合いすら応じず、居留守を使うのが常だった。仲介不動産の担当者も逃げるばかり。市役所にも相談したが、そういう問題は応じられないとの答え。結局、M市警察の生活相談課にも3回ほど足を運び相談をした。


相手は、M市に本社のあるNという一部上場企業の中年男性社員だったので、人事部にも事情を話した。人事部長が言うのには、訴えてもらっても会社としては構わないという対応だった。これを機会に解雇の理由となることを望んでいるのだろうかと勘ぐりたくなるような冷淡な対応だった。


M市の警察に最後に訪れたのは、今年の1月。会社を休み、朝から相談の時間を予約した。親身になってUさんという刑事さんが話を聞いてくれた。A4の紙3枚にこれまでの経緯をまとめたメモを持参して読んでもらった。


刑事さんは、この男は正常ではないねとひと言。さらに、都会にはヒッソリと正常な生活の出来ない人間が、薬を服用して一人暮らししているケースが実に多いのだと教えてくれた。田舎にいればウワサが立って親族が住みづらくなる。都会は、そのような異常な病気を抱える人たちの隠れ家にしていることがある。M市でも多いのだよ、と。


「Yさん(私の名前)、引越しするのが一番かもしれないよ・・・」
「でも、理不尽ですよね。引越しするといっても、20万か30万の費用がかかりますよね。こちらが被害を受けているのに、金を払うなんて。大家さんか相手から取り立てたいくらいだ・・・」
「Yさん、これまで私はいろいろな事件を見てきたけれど、ねぇいいですか、被害者はみんな理不尽なものです。不当な扱いを受けてよいという正当な理由なんかないのです。事件はみな理不尽なものです。相手と対決して、相手の謝罪を取り立てようと考えがちですが、そうして傷害事件に発展するんです。被害を受けてよい理由なんかないのですよ。」


逃げ出すなんてそんなことは出来ないと頑なに思い込み、何とかこちらの正当性を相手に認めさせようと3年間つとめてきた気持ちの張り合いが、このときポキッと折れた感じがした。そうなのかもしれない。意地の張り合いみたいに正義と正義がぶつかり合っている事態なのかもしれない。このとき心の中で引越ししようと決意した。


そう決めてからは気持ちも軽くなった。引越し先のアパート探しから、身の回りの片付けなど、それはそれなりに大変だったけれど、順調に進んで3月末には今の新たなアパートに落ち着いた。


U刑事さんが諭してくれた言葉。
日が経つにつれて私の心の中で重みと輝きを増してくる。