たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

広角に視るということ

「宇宙から見た日本」という薄い写真集を、いつも机の周辺に置いている。
地球観測衛星」といわれている衛星から日本の地形を撮影した写真集だ。
航空機に乗るときは必ず窓際に座り、迷惑もかえりみず窓を開けて地表を眺めるのが
何よりの楽しみである自分にとって、この手の本は理屈なく座右の本となってしまう。


自らの地球の姿を、この目で直接外から見たいものだが、それは叶わない。
そこに働く心理は自分でも不可解だが、歴然としてある欲望なので仕方ない。
写真集の表紙には、関東平野から四国九州までが一枚の画像に収められている。
ちょうど東北地方の仙台あたりの上空800kmに居て、九州の方を水平方向に見たような感じである。
むろん斜めから見ているので、地図帳で見る形状に比べると大胆に歪んでいる。
長野県のアルプスや富士山が、立体的に浮き上がる(本物だから当たり前であるが)。
日本列島のこの地域は直線状だから、一枚の画像で見通せるというわけだ。

初めて見るとここはどこだろうと戸惑うが、自分が巨人となって西日本の方角を
斜めから見ているのだと気づくとき、フラフラと目眩を感じる。
この感覚がたまらないのだろうなと思う。きっと視線の先には、地球の丸みや大気の層が見えるくらいの高度なのだろう。


中央アルプス南アルプスに挟まれた伊那谷がスジのように伸びていて、
いつも隣町に出かける際に越えている火山峠すら、明瞭に見えるわけなのだ。
このふもとにわが家があり、そこに庭があり飼い犬が走っていると想像すると、
何だかとっても変な気分。


吉野源三郎の『君たちはどういきるか』という昔読んだ本をふと思い起こす。
ビルの屋上から小さく見える街並みを眺めた主人公のコペル君。
人々がアリンコのようにその中で一所懸命暮している様を想像して目眩を感じる場面だ。