たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

原風景

なぜだか子供時代というと、横浜の郊外の戸塚の里山のある風景が思い浮かぶ。
家からはかなり遠くまで出かけていたことになるが、ほぼ毎日丘陵が続く
風景の中で日が暮れるまで遊んでいた。幾重にもゆるやかな丘陵が重なる
風景の先へ大きな太陽が傾いていく。本当はもっと遊んでいたいのに
夕焼けが空を朱に染めて、やがて夕陽が沈み、急速に暗くなる。
そこで仕方なく家路を辿るのだった。
母から暗くなる前に家に帰れといつも叱られていた。
ものおぼえが悪い自分は、暗くなって周りが見えなくなって、
やっと気づくのだった。また今日も叱られるなと。


去年の雪は今いずこ、という詩の一節があるが、これは失われたものへの
寂寥の思いが込められている。自分の場合は、夢中で遊んでいた子供の頃の、
あの夕陽の空はどこへいってしまったのだろうと思う。
50年も経過し、遠い記憶のなかにある風景なのに、
ときに妙に生々しく立ち昇って、過ぎ去った年月の長さにはっと気づく。
歳をとったんだと言えば言えなくもないが、我を忘れて遊び呆ける無心の時代が
あったのだなと振り返る。


こんな風に自分の経験したさまざまな原風景を、すべて過ぎ去ったものとして
思い起こす時がいつかやって来るのだろう。