はり付いてくる言葉
なにげない言葉なのだが、妙に身体にはり付いてくるような一節が
頭の中をグルグル回っていることがある。
これはたぶん、考えようとしなくとも、心の奥底で自分が呟いている
言葉なんだと思う。言葉は「外から」やって来たわけではないから、
振り払うわけにはいかない。
何年か前に読んだ辻征夫さんの『屑屋の随想録』という詩の中の一節は、
そんな言葉の一つだ。
・・・
そういえば おれはいつの頃からか
人間を尊敬していないのではないか
家族だけはひとなみに守り 数すくない
友だちと談笑はするが人間は
尊敬していないのではないか
●小型トラックの助手席の男の放心 より
こういう言葉が、詩に昇華されている辻さんの詩の巧みさ不思議さには、
いつも感嘆してしまう。
一方、「いや詩とはそういう心の奥底の言葉を掬い取ることなのだよ」と、
辻さんに諭されているような気もする。
「50年も生きていりゃね、
いろいろと言いたかったことも言えなかったりして、
こころの中に溜まってくるものがあってね
別段 不幸とかそんなんじゃないのだけれど
ふと 放心したりもするさ
詩くらいに 留めておきたいと思うわけさ」
なんて言っている様な、そうでないような。