たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

道具〜その2〜

道具を買うなら一番高いものを買えと、その道の人は言う。
しかしその意味が心底わかるまでは、なかなか買えるものではない。
なぜなら2,000円で買えてしまうのに、敢えて8,000円の値段のついたものを
誰が買うだろうか。
こうして、いちばん売れ筋の道具は2,000円の安物となり、
量販店では、本物の道具を置かなくなってくる。
そりゃ、そうである。
誰も8,000円も出して買うバカ(客)がいるものか、それに
何でこんな高い値段をつけているのかねぇ、と道具にまで
ケチをつけられる始末だ。


かくして、本物の道具はお目にかかれなくなり、その存在すら知られなくなってくる。
探しに探してやっと売っているお店に行くと、
なにやら古ぼけて潰れそうな店に、年寄りガンコオヤジみたいのがいて、
なんだか七面倒くさいことを言っていたりする。
しかしこれが、本物を知っているオヤジの姿で、こういう人物に
出会えた幸せを本当に喜ばなければいけない。
本物の伝統は、こういうオヤジに受け継がれていることが通例で、
その稀な人物に出会えたのである。
薀蓄を余すことなく吸い取ってこなければいけない。


安物と本物の違いは、手にして使ってみると、手や肌から伝わってくる感触が
まるでちがうことがわかるだろう。これは理屈でどうこう言うものではなく、
一つの体験なのだ。
美術、骨董の道は、ただただ本物に触れ、本物を見る体験を長年にわたって積むことだと
聞いたことがある。
体験した人こそちがいを見分けることができ、この道の奥深さの片鱗を感じることができ、
この道へ入門する招待状を受け取ってしまったことでもあるのだ。