たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

線の質について

鉛筆画の魅力とは、鉛粉が描き出す画家の手のダイナミックスだと思う。
鉛筆という道具はとても正直に手の動きを反映する。
そのくらいのストロークで描いたか、スピードは速かったか、
止めながらふたたび描いたか、自信に満ちて描いたか、
不安な気持ちで描いたか、無我の状態で描いたか。


あまり最近作品を見る機会がないのだが、
篠崎輝夫さんのスケッチの線に魅入られて、一時期、毎日眺めていた。
こんな風に描きたいとは思うものの、個性というのだろうか
同じ風には描けない。篠崎さんの線の魅力は、すっと延びた真直ぐな線質にあると思う。
グニャグニャと遅い鉛筆の運びで描いたと思われるスケッチもあるが、
やはり速い線でかいた駅のホームの風景などは絶品だ。
風景と完全にシンクロして手が動いたのではないかと思える線の自由さ。


あとは惹かれるのはエゴン・シーレの、肉体と空間との間をギリギリ削り取るような
ためらいがちな線の運び。痛々しいが鋭い個性ある線で、天才というべきだと思う。
しかし真似しようという気が起きない。それくらい自分とはかけ離れている。


まったりしていて曲線が魅力的なのはマチスの線画。余り数は見ていないけれど、
遠目で見てもなんだろうと近づいて見てしまう魔力がある。
若い頃のマチスのデッサンを見ると、すでにデッサンの力量は完成されたものがあり、
あまりのうまさに、見る方はぐうの音も出なくなってしまう。