たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

宮崎琢磨『技術空洞』

先週には読み終えていた。しかし書籍の核心の映像がなぜか浮かんでこない。
企業で同じように開発作業に携っている自分にとって、書かれた内容に多くの共感を覚えたのは事実だが、結局何を主張しているのだろうというところで、シャープなピントを結ばない気がした。その理由をツラツラと考えていた。

その過程でいくつか思いだした。S社に所属するエンジニアや経営者の書いた本を、過去に2冊読んでいることに。
ひとつは出井伸之著『出井伸之のホームページ』、もうひとつは、天外伺朗著『人材は「不良社員」からさがせ』(1988年ブルーバックス)である。そして『不良社員』というコンセプトからなるエンジニア像を背骨に据えることで『技術空洞』の見通しがよくなり、よく理解できることに気づいた。

・・・実際に、2003年頃を境に、事業を根底から支えているような、本質がわかっているからこそ自我も強いような人間が、マイナス評価をつけられて次々と追い出され始めていった。
p.144

だが、現場では大学名とその本人の能力は比例しない。いや、有名大学を出た人間の中にこそ、理屈やハッタリに優れ、汚い仕事から逃げ、格好のよいプレゼンばかりしている者が多い。
p.146

不良社員』からの引用。

D博士に言わせると、人材が不良社員に変身するひとつのきっかけは、首脳陣を批判して嫌われて干されるからだという。人材は筋が読めてしまうため、現在の首脳陣の方針では駄目だとわかってしまう。良い子たちなら、たとえ駄目だとわかっても首脳陣を批判するような暴挙は冒さない。コマッタ、コマッタと言いながら、それでも首脳陣について行く。
 ところが人材はあまりにも率直であり、あまりにも自信があり、あまりにも自分に忠実に生きようとする。協調精神は二の次となり、痛烈に首脳陣を批判してしまうのだ。人材は、妥協することを好まない。
p.30

「良い子たちと人材は、プロジェクトに取り組む姿勢がまったく違います。良い子たちの基本姿勢は、組織の中でうまく立ち回ることであり、自分が不利になるようなことは絶対しまへん。自分の身が危険になるようなリスクの高い仕事には最初から手を出しまへん。プロジェクトの成否よりも、身の安全が第一ですから、手を汚そうとはしないのです。」
p.33

この本には、良い子の特徴という一欄表があり、これがけっこう興味深い。

一、良い子はいつもニコニコ
三、良い子はプレゼンテーションが上手
六、良い子は争いを好まない
八、良い子は上司に忠実、会社に忠実
十、良い子は泥にまみれるのを嫌う
十二、良い子はつねに安全な場所に身を置く
十五、良い子は人材を駆逐する


この『不良社員』の著者は、何年か後に、あのAIBO開発で有名なD博士であることが明かされるのだが、この「できる研究者」の経歴を持ち、かつ「できたマネージャ」であるD博士(望みうる最高の技術出身役員)がS社にはいるはずなのに、なぜ宮崎氏が退社を決意するところまでS社の内情がボロボロになり下がったのだろうか。それは謎だ。


ふたたび、『技術空洞』より引用。

2006年1月に発表された再生計画はひどいものだった。犬型ロボット「アイボ(AIBO)」や「キュリオ(QRIO)」といったロボット事業、カーナビ、プラズマテレビなどからの完全撤退が決まった。・・・
p.269