たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

『星言葉』

晴佐久昌英さんのエッセイに「離れる」と題される小文があり、ボクはこのエッセイに深く同感した。二十世紀最大のできごとを問われるならば、躊躇なく人類が宇宙に飛び立ったことを挙げたい、と晴佐久さんは言われる。

人類が初めて、自らの住む星を離れた所から見るまなざしを持ったことが、人類の歴史において重要な意味をもつと思うからだ。
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地球を離れた宇宙飛行士たちは、自らの星を一つの対象として眺めるという体験をとおして、みな一様に、地球というかけがえのなさに目覚めている。国籍・文化の異なる彼らが共通して感じたことをさまざまなインタビュー記事などからまとめると、おおよそ次の三点になる。
①この神秘的な、青く美しい、いのちあふれる星が、暗黒の宇宙のただ中に存在するのはまさに奇跡であり、とても偶然とは思えない。
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(以下略)


沈黙する黒い宇宙のただ中に、青い大気と白い雲に繊細に覆われた輝く球体が、何の説明もなくぽっかりと浮いていること。
そしてボクたちの全ての人生、存在が、この明るく輝く球体の中に今まで包み込まれていたんだという発見。


巨額の費用を投じて宇宙開発なんて何のためにするのかという議論があるが、この地球という星の画像を見るとき、生命体は自らを見つめるために生存し続けるという考え方が、自然と納得される。進化に進化を重ねて生命現象は、人類という頂点をつくり出したと思う。そして人類は何をしているのかと考察するとき、結局、宇宙とはなにか、自己とは何かを探求している。いわば宇宙は宇宙を自己認識することを目指す。そんな説が本当に思えてくる。


この味わい深いエッセイたちは『星言葉』という著書にまとめられている。晴佐久さんはカソリックの司教さんだが、この著書にはひと言も「神」という言葉が出てこない。