たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

村上春樹『象の消滅』

最近、とある紹介文に導かれて村上春樹さんの小説を読んでいる。
今日は『象の消滅』を読み、深い味わいと不思議さに打たれて
今までにない感動を覚えた。


小説というよりポエジーの充満した長編詩なんじゃないだろうかと考えてしまった。
その前に読んだ『パン屋再襲撃』も、詩的なイメージがキラキラと輝く。
理由なく立ち現れる詩的イメージが、すこしも突然ではなく、
じつは必然なのではないかという説得性を持つところが魅力だ。


村上さんの作品の文章には、あらわな形では言葉が出てこないが、
まさしく現代世界の空気を語っていると思う。
それは、何というのだろう、システム化され進化してしまった社会で、
生きざるを得ないボクたちの、倦怠に似た生活感情だ。


それは文体によく出ていると思う。
つぶやきのような途切れのない文章で、戸惑いを思わせる文体なのだが、
実はその文章の奥に、ボクたちが包まれている半透明の
殻のようなものがうっすら見えている気がする。
これはまさしく、団塊の世代以降の人ならば、抵抗なく受け入れてしまう「何か」なのだ。