たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

2位じゃダメなんですか?

事業仕分けにおける蓮舫議員の「世界1位を目指す理由は何ですか。2位じゃだめなんですか?」という発言。だいぶ時間が経っているのに、なんだかこの言葉が頭について離れません。自分は、むろんダメなんですという立場にいます。何十年と技術開発に携わってきた技術者の端くれとして、これは言わずもがなの自明に近い感覚です。


でも科学技術の競争でも2位でいいのじゃないか、それなりの予算投資でいいのじゃないかという発想と、科学技術に携わる人たちのそんなのダメだという肌感覚とが、キッパリと分離していることが気になっているのです。それが頭についてはなれない理由です。この谷間はなかなか埋まりそうも無いなという予感です。


さて、技術開発競争において、最善の努力をしているにもかかわらず、箸にも棒にもかからないことがあるという現実があります。まだ見ぬ未来への勘というか、センスの良さというか、嗅覚というか、そんな数値化できないものが雌雄を決するのが現実です。背伸びして背伸びしてさらに背伸びして、最後の最後に運命の女神が微笑むかどうか、神任せのギリギリの世界が展開します。


別の側面からいえばこんなことです。
開発や研究には目標達成への道筋を、ある程度事前に想定し計画します。しかし実際の作業を進めると、想定外の問題が発生するのが常です。人間の知恵なんてたかが知れています。そのたびにその課題を解決する方法を複数案検討します。どれが正解かはわかりません。しかしどれをとっても当面の課題はとりあえず解決するものばかりです。そういう課題発生のたびに選択肢を決め、何回か分岐点を越えるうちに、たくさんの分岐点を持った末広がりの膨大な分岐路のどこかを歩かざるを得ません。問題は選んだ先に、果たして答えはあるのか?


樹木のある枝の先端に果実がひとつなっていて、木の根元にいる虫がその果実に到達しようとしているのに似ています。上の方の果実に到達したい虫は、幹を登り枝分かれした枝の一本を選びそちらを歩みます。しばらくいくとまた枝分かれしているのでどちらかを選びます。このようにして、歩いていくうちにイジワルな問題が出てきます。ある枝の選択を誤ると、後戻りしない限りその先には果実が存在しない現実です。ではその重要な選択を事前に察知できるか。そんなことはできません。勘のよさというか幸運というか、そんなものがいつもつきまとっています。そんな人知ではどうしようもない要素が横たわっています。しかも金に糸目をつけずにやってきて、この状態です。


成功者は振り返っていいますよね。自分は運が良かったと。これは実感でしょう。


2位じゃダメなんですか?
2位でいいですといって予算を半分にすれば、選択肢の幅は極端に減り、虫にとって登っていい枝が限られてきます。いくら頑張ってもその先にはもともと果実が無い可能性が大きくなるのです。2位でいいといえば10位になる、あるいは100位になる。あるいは答えの無い道を歩んで、仕舞いに落伍する可能性が急増します。そういう技術開発の現場の現実があると思います。


予算の額に応じて緩やかに比例するような成功(順位)が手に入るなら、そのような発言は理解できます。たとえて言えば買い物をするような感覚なのでしょう。金を出せば額に応じていいものが手に入る。なぜ、いちばん高価な最高級ブランド品を買わなければならないのですか?お金が無いのです、少し安いものでいいじゃないですか、と。


現実には、開発で先行されれば、あるいは規格を握られれてしまえば、それまでのおのれの努力は全部無駄となるわけです。実際、2位は限りなくビリかゼロに近い。そんなメーカ間の競争秘話(悲話)はこれまでたくさんありました。


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