たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

鉛筆の線

まず、はっきりと表明しておきたい。
鉛筆で描くなら、外形線は一本でなければいけない。
なぞったような、ためらったような線は、はっきり言って嫌い。
なぜって、なぞって何本も描いている外形線は、
どれが画家が生き生きと感じた線なのかわからない。
その集合体からボンヤリ外形を感じて欲しい、
というのは肩透かしを喰らう感じで気持ちよくない。


エゴン・シーレの線画を愛してやまないのは、
その線が妥協せずにゆるぎないところを描いているから。
対象のもつギリギリの表情を捉えようとしているから。
対象の表面が周りの空気と対立している境界線を抉り取ろうとしているから。


面で描くという言い方がある。光に対して面が向いている角度で明るさが決まる。
その明るさを表現することで面の方向が見えてくる。
しかし線で描くときは、面の明るさを表現しているわけではない。
面の終るところ、周囲の空気との境界線を描くだけだ。
複雑な凹凸をもつ面の境界は当然複雑になる。
人体を描くときにはとても困難になる。


しかし正しい境界線を描くことができたとき、
そこから面のあり方を感じることができる。
最小限の線により内包する面の表情を描き出す。
エゴン・シーレの線に感動するのはそれを捉えているからだ。


若き無名のエゴン・シーレが、グスタフ・クリムトと対峙したとき、
クリムトをして、君の方がデッサンがうまいではないかと言わしめたのは、
まさにクリムトがそれを察知したからだろう。


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