たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

『モーリス・ユトリロ展』

よく立ち寄る書店の上階に、三鷹市美術ギャラリーという展示場があり、先日7/8までユトリロ展が開催されていた。見よう見ようと思いつつ、結局訪れたのは最終日に近い6日。会社帰りに立ち寄った。


「白の時代」を中心に80点あまりを集めた点数規模の多い展覧会だった。「白の時代」とは、ユトリロアルコール中毒に陥り、通う病院の医師の勧めで絵画を描きはじめた頃の、白壁を多く描いた時代のことを言うらしい。地味に郊外都市で開催された感のある展覧会ではあったが、多くの人が訪れていた。ユトリロは、日本人には人気が高いらしい。


作品の前に立つと、寒々しい冬のモンマルトルの街並み風景や街路が描かれていて、ユトリロの心のあり方が、そのまま素直に絵に出てしまっているという印象だった。「モンマルトルの詩情」と展覧会の副題がついているが、詩情をたたえるという積極的な意味はあまり感じられず、心情吐露したというふうにボクは受け取った。


ユトリロの絵画ポイントのマップが展示されていたが、一貫して生まれ育った街の周辺を、手当たり次第に描いていったようだ。ユトリロが異国を旅をして、ことなる風光に触れ、画風が展開するというような痕跡はないように見える。何かを求めて描いたのだろうか。ユトリロにとって美とはなんであったろう。わからない。
しかしユトリロの絵から、何かに追い詰められている精神的な切迫感が立ち現れるのは隠しようもない。それはアルコールへの依存を断ち切れなかった理由と同一のものだろうか。


晩年は栄誉に満ちた暮らしを送ったそうだ。名誉ある勲章を得てサインをするだけで高値で飛ぶように売れたらしい。名声が出てきたがゆえに作品を世に出すようプレッシャーを掛けられつつ、アルコール依存症を患いながら、ひたすら類似のアングルの街路の絵を描いたユトリロは、油絵から受ける印象と酷似して寂しい。