たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

ついに手帳が・・・

愛用してきたシステム手帳のバンド部分がとうとう脱落した。数日前より、バンドがゆるんできたなと思っていたところ、縫っている糸が擦り切れた。10年以上使ってきた。よく働いたなぁ・・・


刺繍が趣味の人に聞いたら、そんなもん塗っちゃえばいいのよと事もなげに言う。しかし、縫うためには表紙の裏側のいろいろポケットがついている部分を剥がなければならない。新しいものを新調するか。


すでに亡くなってしまった知人が愛用していたクラッチバックのことを、ふと思い浮かべた。もとは明るい牛革のバッグだったに違いない。バッグをご披露してもらったときは、掌の当たるところが本当の真っ黒になっていた。留める金具は3世代目だそうで、金具が壊れるたびに直してもらったのだという。なんと敬愛すべき頑固一徹の、本当に見上げた根性である。モノを大切にする点において鏡とすべき人物だった。システム手帳はまだ10年余り。これからじゃないか。定年にしてリタイヤさせるにはまだまだ早いなと思った。よし、直そう。


というわけで写真のような縫い針でバンドを縫っているような事態になった。表紙裏のいろいろついたポケット部分の皮は、カッターナイフで切り裂く。表紙の裏側がむき出しになる。そこで黒糸で丁寧に縫っていく。バンドがしっかりついたら、切り裂いたポケット部の両側をつき合せ縫いをする。そののち糸目に瞬間接着剤を染み込ませて緩まないように固着させる。


こうしてみると、10年の年季から来る風格は格別のものだ。掌が触れることで表面はピカピカになり、バンドのようなよく曲げられる部分はシワが入り、皮の地肌が出ている。オマケに大手術をした縫い跡があり、もう世界に一つの自分だけの手帳になった。おそらく買うときにはキズ一つない完璧な商品を探して手にしたはずだが、自分だけのキズがついたものに愛着を感じるとはこれまたおかしな心理である。