たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

ウソの効用

皮肉なことだが、マジメに絵を描けば描くほど、
また真に迫る絵を描こうと描き込むほど、ウソっぽくなる。
写真のように緻密に描けば、本物ソックリになっては行くのだが、
同時にウソウソとした雰囲気が出てくる。
これはなぜだろうか。
リアルに描けた瞬間に、その絵の目的を達してしまったがゆえに、
急につまらないものに化するのだろうか。
絵は、どこか未完の側面、未来を先取りする側面を必要とするのだろうか。


書の落款を掘る篆刻という分野がある。
丹念に印刀を使って、失敗しないように慎重に掘り進む。
そして仕上げの段階になると、なんと慎重に掘った印面を
その印刀の反対側で、適当にカンカンと叩いて欠いてしまう。
これを「サビをつける」と言って、仕上げで必ず行う作業である。
昔の中国の人が、落款を衣に入れていて、石同士がぶつかって欠けてしまい、
それを風流と感じる感覚である。
確かに、サビのない印影はつまらない。
それを醸し出すため割ってしまう。


完全なるモノ永遠なるモノが目の前に現れたら、
これほど退屈で、窮屈で、我慢ならないものはないかもしれない。
不完全なるモノにこそボクたちは惹かれ、真の姿を写し出すと
感じるのだろうか。
ピカソが、どのような意味で言ったのかわからないが、
こんな気になる言葉を吐いている。
「芸術は真実を悟らせるためのウソである」