たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

ふと届いた質問

絵を通じた若い友人が先月始めにイタリアへ旅立ちました。フィレンツェの美術スクールに入学して、はや2ヶ月弱がたちました。ときどきメールが届きます。先日は、周りのいろいろな絵画に取り囲まれている(贅沢な)環境の中で、戸惑ってしまっている自分を発見したそうです。自分の絵がどこにあるのか?自分の絵を見失いそうになるという趣旨の便りでした。


自分も絵の道に進みたい気持ちを抱きながら、どうしようか迷っていた10代の頃がありました。けっきょくは堅実な技術者の道を選択しました。そこには何が何でも絵の道へ突き進む気持ちにならない煮え切らない自分がいました。その大きな理由のひとつは、自分は何を描きたいのかと問い詰めていくと、確固とした答えがなかったためです。あなたの美は何ですか?何を表現したいと思っているのですか?と問われると、明快なものがなかったのです。


ただ絵が好きなので、という答えは答えになっていないと感じていました。やみ雲に絵の道に進んだとしても、この問いに向き合わなければならない。何を表現するつもりなんだ?そしておそらく自問自答の中で苦悶し、挫折してしまう。そんな気配を感じていました。今思うと、まじめで慎重な考え方です。もうちょっとはちゃめちゃでもよかったかもしれない。


しかし、明快な答えのないまま、好きだからというその一点で、絵の道に突き進む人も多いと思います。学校を出ても、その後の作品群からは、この人の考えている美とは何だろうか、と戸惑ってしまう場合も少なくありません。ものごとを単純化して考えた方がいいと思います。あなたの美とは何ですか?そしてその美を表現できていますか?問わなければいけないのはこのことです。


ワクワクし、一方では失敗するかもしれないという惧れも抱きながら絵に向かう。自分だけの美の世界を発見し、それを表現したいと苦闘する。そんな姿が本来のものだろうと思います。美とは何かという問いへの自分の答えを探す作業、これがすべての創作作業の本質だと思います。そんなようなことを若い友に返信しました。