たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

あまりにも役所的な・・・

金融の仕組みを勉強する必要性に迫られて、夜も更けてもいろいろな本を読んでいる。そんななかで、ヤバイと感じるのは日本の金融の状況、そしていま蔓延している不況の状況だ。とてももったいないという気がしてならない。このまま人為的に作られてしまった不況の真っただ中で日本は沈んでいくのだろうかと心配してしまう。リーマンブラザーズなど証券界や金融の世界で要職を歴任してきた小林幹男さんの著書を読むと、そのことが驚きをもってわかってくる。


小林さんは、改正貸金業法により消費者金融の市場が消滅することを警告し、また改正建築基準法により建築業界からはじまる不動産不況がもたらされると警鐘を鳴らしていた。で、その後どうであったか。
消費者金融の業界の不振が伝えられる中で、先日とうとう消費者金融の大手の武富士会社更生法申請を出し倒産。ほかの会社も相当に苦しい状況に置かれて、破綻や廃業は時間の問題だとも言われている。


金利を払ってお金を借りる。このこと自体にはなんらおかしいことはない。貸す側に立ってみればお金を返す信頼度の高いお客には低金利で、多額の資産や担保を持っているお客には容易にお金を貸せる。逆に、担保もないお客や、貸し倒れの可能性の高いお客に対しては高金利で貸す。リスクが高い金貸しにおいてはハイリターン(高金利)を取らないと業態自体が成り立たない。


無担保、即融資という消費者金融の会社は、銀行から資金を借りリスクの高い客にお金を貸す。それらのビジネススタイルで見込まなければならない金利の最低限界値は年利20%になるそうだ。利息制限法の上限金利は、10万未満で20%、10万以上100未満が18%、100万以上が15%に制限される。これまで出資法の上限金利29.2%までのいわゆるグレーゾーン金利(20%〜29.2%)で商売をしてきた消費者金融は、大幅に利益が減少する。


そもそも金利の制限値に2つの基準(利息制限法および出資法ダブルスタンダード)があるのがなんとも不思議な現象である。だからグレーゾーン金利とか言われて違法なのか適法なのかはっきりしない金利領域が生まれ、消費者金融は業績を伸ばしてきた。ところが2006年1月に、利息制限法の厳格適用が最高裁判例で出たことで一気に違法ということになってしまった。


消費者金融に追い討ちをかけているのは、このグレーゾーン金利で得た過去の返済金は、違法で、つまりはこれまで収益とされていたものを顧客に返還しなければならなくなった。新聞の報道によれば、武富士1社で、過払い利息債権の保有者は100万〜200万人、債権額は1兆〜2兆円程度になる。私企業においてこんな負担が一気に発生したら耐えられるとは思われない。またTVのコマーシャルでもわかるとおり、過払い金の請求ビジネスが一気に増えた。


小林さんの著書に、このような経営環境の中でこの業態が継続可能となる金利は40%だそうである。つまり過払い返還をしながら会社が存続できる限界金利のことをしめす。つまり結論としては、20%に法律的に制限されている金利のもとでは、この業界で商売をする人がいなくなる、つまりこの約10兆円の市場は消滅するということを意味する。


困るのは結局、家庭の主婦や中小企業の経営主だ。つなぎ資金を得る手段がないので闇金融に走るか(十いち利息、つまり10日で10%、あるいはそれ以上)、または倒産してしまうか、犯罪に走るか・・・という殺伐たる状況になってしまう。(銀行は無担保では決して貸さない。念のため)。このことがどれだけ日本の景気に影響していることか・・・なんとも愚かしい結末。


かつて消費者金融の取立ての厳しさのため社会問題にもなり、法律改正につながっているわけだが、市場自体をつぶす結末になるとは・・・。
取立てにまつわる犯罪の発生の原因は、高金利のためだけとは言えないはず。金融の根幹である金利の数値に、法律的な力で制限を掛ければ経済は死んでしまう。


ダブルスタンダードの存在下で収益を上げてきた消費者金融の業界を、今度は違法として断じてしまう。なんと空疎で形式的な施策なのだろう・・・不況のツケは誰かが払わねばならないのだ。