たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

水彩絵の具の親しみやすさと難しさ

日ごろ水彩絵の具について感じていることがらを。
小学生の頃は、不透明水彩絵の具をつかって図画の授業が行われていたと思います。プラスチックのパレットに絵の具をチューブからひねり出して、ひたすら塗っていくという感じでした。絵の具の顔料には、有害な金属や金属化合物が含まれていて口にしては危険ですが、しかし水に溶けて扱いやすく、こぼしてよごれても拭き取りが簡単です。道具の後始末も、水洗いですからとても簡単。親しみやすい絵の具といえます。


水彩画は、文房具屋さんで道具を揃えれば、すぐそろってしまいます。それに子供の頃、経験済だという、なんとなく卒業したという気分があります。子供時代の経験が影響してでしょうか、日本においては大人になって絵を描くというと油絵を思い浮かべます。水彩は、せいぜいメモ程度、油絵の下描きスケッチ用の色つけくらいの感じですね。


自分の場合、40代半ばになってから信州駒ケ根にやってきて、東京とはまったくちがう緑の美しさに気づいて、これを表現できないかなぁ・・・と始めたのが水彩画でした。なにより簡単そうだということ、あまりお金もかからない感じで、友人のKさんとあちこちスケッチをして歩きました。スケッチには向いています。固形絵の具を持参すれば、とてもコンパクトにまとまっています。あとは水を容器に入れて筆を少々。


しかし今になって思うのは、水彩画は他の画材に比べてもっとも難しいジャンルではないかということです。水という流れやすいサラサラの液体をベースにしているところ、それに紙を絵の具の支持体にしているため、紙と水との相性が複雑に関与すること、それに水分が乾いてしまえば、その状況は一変します。水が乾いてしまえば、あともどりは出来ません。いちばん似ているのは墨を使って描く水墨画や書ではないでしょうか。


液体中の絵の具は、さまざまな条件が関与します。ジャブジャブの水分中では絵の具は、比較的速く水中を拡散して、水が乾く前に均一に広がります。ムラのない色付けには適しています。一方、せいぜい湿っている程度の水分の場合は、絵の具の拡散するスピードはずっと遅くなり、水分の乾く速度と絵の具の広がる速度の追いかけっこの状況となります。もし水分の乾きが速ければ、微妙なグラデーションをみせてひろがったパターンのまま絵の具が固定されます。


佐々木悟郎さんはとても好きな水彩画家のひとりで、この水分の乾きと水彩絵の具の広がりを見事にコントロールしています。シャープな線とにじみやぼかしを巧みに使った絵画は、見ていて飽きがきません。みずから水彩画というより、「水絵」と称されています。
→(ご参考)Amazonサイトです
みづゑのレシピ 水絵を描く 佐々木悟郎―水彩で描き続けて20年、第一線で活躍するプロの制作過程すべて公開


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