たぶん絵的なBLOG

画材店の店主がつづる絵画や画材のあれこれ

風景画は現場で描くべきか?

当地の伊那谷では、高遠美術館が主催する信州高遠四季展という比較的大きな公募展が3年に一度開催されます。今年がその年に当たっていて、生徒さんの中には出品された方もいます。以下の内容は、先日の絵画教室で、絵筆を走らせながら生徒さんが語った内容です。


この公募展は、画題としては伊那市高遠を中心にした風景画が多く、今回偶然にも同じアングルから描いた風景画が2つあったそうです。審査員の先生の言葉なのか事務局の言葉なのか、その辺は不明ですが、2つの絵を比べてこう発言された方がいたらしいのです。『ひとつは現場で描いているが、もうひとつは撮影した写真をもとに描いている。』


その理由は、カメラレンズを介して撮影した近景、中景、遠景の大きさの比率が、あきらかにカメラレンズのひずみを反映してしまっている。つまりは近くのものはゆがんで大きく写り、反して遠くの山があまりにも小さくなってしまうということです。


遠近法という3次元を2次元にとらえる手法がありますが、人間の目は脳のほうで3次元に解釈して見ていますので、実際の網膜に投じられたゆがんだ画像を補正してしまいます。それに人間の網膜は、球体の縁に張り付いた形ですので球体フィルムに写った画像になっています。一方、カメラはフィルムにせよCCD(撮像素子)にせよ平面形状です。それにカメラレンズがもつひずみ(歪曲収差)が強く影響すると思われます。


したがって写真画像の形状や比率は、人間が現場で感じた風景のそれとは同一にはなり得ません。写真をもとに描いた風景画は、見る人が見ればゆがんでいることに気づきます。また逆に感動した風景をカメラに収めても、その現場で感じた感動は見当たらなくて、絵が妙に小さく感じることが多いはずです。


見取り枠というスケッチする際の道具がありますが、これを使えば写真よりはゆがみのない絵が描けると思います。安野光雅さんが、むかしNHKの水彩画講座(1995年)で実験をしていたことを思い出します。見取り枠を使って描いた絵と、自由に感じたままを描いた絵の比較をするのです。
(注)ハードカバーの立派な装丁で再刊行されているようです。amazonのサイトで→安野光雅 風景画を描く


この実験で面白かったのは、見取り枠を使った絵はつまらないという結果です。
つまりは現場で見たまま感じたままを描くのが、いちばん感動をよく伝えるということになるのでしょうか。


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